REDWING COLUMN NO.97 レッドウィング アメリカらしさを見る
かつてのアメリカでは資材を無駄なく使い切ることや、生産効率を上げることにより
商品に対してのコスト削減を図る意識が特に強かったとも言われている。
所有している90年代のレッドウィングは、現在の品質管理下では見られないような個体が多く
これを人によっては味としたり、古き良き時代の面白さとポジティブに捉えられることもある。
今回はラフさやバラつき、その時代の緩さに敢えて注目してみることにした。
先ずは通称「刺繍羽タグ」のミシンの縫い付けから見てみる。
左上は几帳面にきっちりと縫い付けられたもので、それ以外はラフさを感じるもの。
ロゴマークなどを縫ってしまっても、気にしない職人さんの性格や癖が大きくなりそう。
ネームタグのこうした姿は商品の顔の一つでもあると思うので、ジーンズのパッチや
綺麗めなブランドのジャケットなんかでは決して考えられないような緩さを感じる。
続いて通称「四角犬タグ」の縫い付けで、ピンと張った状態で撮るのは難しいけど
一応全て綺麗な長方形で縫われていて、羽タグ同様に左上が整っているもの。
羽タグよりも大きい為、一旦ずれると激しく脱線しているものもたまに見掛ける。
この作業を外注していたら社名やロゴマークを縫ってしまうのはNGになりそうだけど
自社工場での生産やワークブーツというアイテム故に許されている部分だと思う。
今まで気にしていなかったけど、プリントのインクの乗り具合に違いがあるのに気付いた。
こちらはまるで左右で別物のような通称「犬刻印」の刻印の加減。
犬刻印は原点回帰として力を入れていたラインではあるけど、不評によって短命に終わる。
そういうことを一旦考えると、右の薄さは外れてしまった自信の無さに見えなくもないけど
おそらく単純に焼印の温度が低い、もしくは圧を掛ける時間が短かったと思われる。
同じブーツでも三種類の刻印が入っているけど、犬刻印だけがやたらとぼやけている。
個人的に犬刻印には良い思い出がないので、そこまで重要視をしていない部分だけど
どうせ入れるのであれば、もっとはっきりさせて欲しくなるというもの。
この個体は左右のベロの長さが違うような気がしていて、今回測ってみることにした。
それとこちら側からちらっと見えているレザーの断面にも注目してみた。
以前から右(左足)側がやけに上に飛び出して見えるなと思っていたけど
実際に付け根から先端まで測ってみたら、左が(右足)13㎝で右が(左足)14㎝だった。
カットして合わせてしまえば良いんだけど、もうこういうのはそのままにしておく。
下の部分はベロの断面なので片足で両側同じになるけど、上のパーツはこのように
断面の色を揃えずに別の色が混ざってしまうのは、当時は普通のことだった。
基本的に黒いレザーは断面が灰色の物を使うのが当時もセオリーではあったけど
茶色用や他の色用のレザーを黒くコーティングして使うことが以前は見られた。
断面が茶色のレザーは通称「茶芯」と呼ばれ、この価値観は2000年代からと比較的新しく
当然断面が全て灰色の場合もあるし、ここから見える色味は様々になっている。
黒いレザーで芯の色が違うみたいに、この時代のラフアウトレザーは毛足の長さがバラバラ。
一般的にスエードもしくはスウェードは、ラフアウトを短くしたものと定義されているけど
これは一つの中にラフアウトからスエードと呼べそうな毛足の長さが揃っている。
近年のラフアウトは長くても中間ぐらいで、主に短くした物が使われている。
毛足の長さが違うパーツが使われれば、プルストラップもこのように全く別になる。
毛足が短ければステッチが目立ち、長ければ目立たないというところも見もの。
ぱっと見では割けてしまったかのように見える履き口のパイピング部分の継ぎ足し。
ここは22㎝ほどの短いパーツなのに繫ぎ目に当たるのは、ある意味レアかもしれない。
家具や床の木材を目立たないように継ぎ足すことはあまり不思議に思わないけど
たかだか何㎝、されど何㎝という感じで、決して無駄にしない精神には驚く。
これは以前にも書いたけど、対となる左右でアウトソールの新旧が分かれている。
左が1997年以降に変更し採用されたトラクショントレッドソールで、右の方は旧仕様となっていて
旧仕様を使い切る為に意図的に付けられ、99年頃に製造されたモデルではたまに見られる。
しっかりと見れば、ロゴと文字が明らかに別物となっていてソールパターンにも違いがある。
レッドウィングのトラクショントレッドソールは消しゴムのような素材で出来ていて
履き心地が良い反面で耐久性が低く、消耗品として張り替えることを前提にしている。
左のソールは旧ソールよりも耐摩耗性が2割ほどアップされていると言われているけど
そこまでの違いは感じず、この時代の物と現行では一応変わっていない?らしい。
アップにしてもほとんど差は無いし、溝の違いもこの視点だと見分けるのは難しい。
このアウトソールが互い違いになっているのは現在二足所有している。
最後にこれはどうなんだろうっていうケースを挙げてみた。
これはウェルト部分とミッドソールの縫い付けの糸が途中で無くなってしまったらしく
よりによってトゥ付近の目立つ部分で、縫い直しをしているのが何とも残念なところ。
このウェルトとミッドソールの縫い付けは土踏まずのやや踵側から縫い始めて
途切れることなく一周するのが、普通というか当たり前の作り方になっている。
赤い辺りで糸が無くなった、もしくは切れてしまい、水色の辺りから縫い直している。
針穴を揃えていない部分はウェルトが若干割れてしまっているのも分かる。
こういうやり直しはブランドによっては商品にならなかったり、B級品として扱われる場合がある。
今回はアメリカの大味な仕事っぷりを手持ちのブーツの中からピックアップしてみた。
一応全て販売基準を満たした正規品として流通販売された個体となっているけど
当時の生産背景を想像して考えれば、これぐらいなら許容出来るかなと思える物から
現在ならきっと流通されないような、怪しい作りの物もたまに見受けられる。
自分はこういった曖昧な作りの全てを決して肯定的に捉えている訳ではないけど
この時代には疑問に思う部分を軽く上回ってしまうような、魅力も兼ね備えていて
良くも悪くも隠れた見どころがたくさんあるなと、改めて感じさせられてしまった。